伊勢(蘇民将来子孫の系譜)

船長、お元気でしょうか?初めてお会いしてから早いもので8年が経ちます。朝明の温泉でしたね。お声をかけて頂き、嬉しく。精悍なお姿を忘れはしません。皆さんがいつもお名前ではなく船長と呼んでいましたね。今も現役で船に乗っているのでしょうか?あの頃はまだ60代でしたね。寡黙で笑みをいつも浮かべていた。日に焼けて真っ黒な皺の刻まれたお顔は船乗りの勲章のようでした富洲原港の週末の朝市で船長が獲って来られた新鮮な魚介類を見るのが楽しみでした。

涅槃を見せる釈迦ヶ岳(鈴鹿山脈)

私は鈴鹿山脈の麓、四日市富洲原港近くに2年近く住みました。伊勢湾の海の青さ、鈴鹿山脈の山の緑、川の澄んだ色、どこまでも広い空、走馬燈のように思い出します。船長が言われた「鈴鹿の山に木を植えに行ってんだよ。山が荒れると海も荒れる。」この言葉を思い出します。木々の山を守り、滋養分を川に流し、川から海へ、そして海を豊かにする。山から川そして海、全てがつながり、海の豊かさを育む。伊勢の素晴らしさはそこにあると実感しました。鈴鹿山脈は海に迫り、1000m級の山並みは伊勢湾を守るように凛としていましたね

竜ヶ岳(鈴鹿山脈)より伊勢を望む

私はあの2年近くの間、以前8年駐在していた中国に戻りたい一心でいたことを今白状します。中国ビジネスの面白さを知り始めた時、リーマンショックで全てがとん挫しました。まだ何かやりようがあったのではないか?自分が寧ろ生かされるのは中国ではないか、日本にはもう未練を残していなかった時期でした。上海そして思い出の蘇州に戻りたい。最早忘れかけた中国語、船長が、関西弁のアホをハオと言われたことを思い出します。ハオは中国語で(良い)の意味ですが、ハオだけでは実はアホの意味になります。言わば皮肉ですね。「いい奴だ」みたいな感じですか。アホはハオから来ていると言われています。関西弁の言い回しは何処か大陸的でした。うるさいは中国語の五月蠅(苍蝇)「ウーユエツァンイン」」から、パパママも中国語から。面白いのはシューズ、英語ですが、元々の中国語は鞋子「シエズ」です。日本語に中国語の余韻を感じていました。伊勢には中国の香が確かにありました。そうそう徐福伝説が残っている新宮は伊勢と熊野につながる港です。

新宮にある徐福公園

不老不死の薬を求め、数百人の中国人と共に日本に徐福は海を渡って来たと言われています。秦の始皇帝の時代、紀元前200年代です。来訪の伝説は朝鮮、九州とありますが、最後に辿り着いたのは熊野と伊勢の入口と言うのが不思議です。辿り着いた彼らはその後どうなったのか?全くその後の足跡は杳として掴めないのです。ただ、多くの中国人が住み着いた証拠が”下戸”の遺伝子にあると思えるのです。この遺伝子変異は中国で起きました。人類の特長は他の動物と違い、アルコールを分解できる酵素を持っているところです。それで酒を飲み楽しめるのです。ところが中国江南地域の人々はこの酵素を弱め、アルコールを分解せず体内に残し、感染症に強い体質をもたらしたと言います。毒を持って毒を制すということですね。この遺伝子が強く残ったのが日本ということ。然も三重、愛知にこの遺伝子を持った方が多い。正に渡来人の遺伝子の賜物でしょう。実は上海・蘇州にいた時に呑めない中国人が多いのに驚きました。伊勢に来てやはり呑めない方が多い。不思議に思っていました。中国の江南地域の人々は色が白く、毛深くなく、細身が特徴です。伊勢の人々も色白、薄毛、細身、似ているのです。上海蘇州、そして伊勢、毎日入っていた温泉で気が着いたことでした。中国で生まれた遺伝子が海を渡り、伊勢に辿り着いたかと思うと感慨深いですね。

伊勢と言えば獅子舞です。発祥の地と言われ、正月には民家を回り賑わいを振り撒きます。伊勢大神楽として今に伝わります。正に中国の舞狮が原点。お囃子がついており、鉦や太鼓、これが日本の祭り囃子に繋がったのでしょう。伊勢の石取り祭りは中国のお囃子を彷彿とさせます。これは伎楽が期限で、中国の呉から伝わったとされ、呉楽とも呼ばれます。日本書紀には伎楽百済からの渡来人である味摩之が612年に伝えたとあります。獅子舞も最初の記載はここに始まります。伎楽は今は使われた面のみ正倉院に残るだけ。何故伊勢に神楽として伝わり残ったのか?神楽の起源は古事記・日本書紀の天照大神の岩戸隠れに天宇受売命が神懸りして舞ったもの。天宇受売命の故郷は正に伊勢です。徐福の残した遺伝子はここにもあるのではないでしょうか?天宇受売命が踊りの際、腰に巻いていたのが注連飾りの元と言われています。

伊勢を伊勢足らしめるのは勿論伊勢神宮ですが、その入り口とされるのが二見浦です。猿田彦伝説があり、倭姫命を伊勢神宮創建へと二見浦から導いたとされます。猿田彦は道を案内する神として道祖神としても祀られています。容姿は天狗そのもの、日本における天狗伎楽治道のようです。伎楽は行道、言わばパレードで始まります。その先頭に立ち道案内の役割を演じています。仲睦まじいカップルの道祖神は猿田彦と妻の天宇受売命に由来します。中国における天狗道教由来で、日食、月食を引き起こす太陽や月を食べる天にいる犬とされます。全く違いますね。日本では天狗は寧ろ山岳信仰の中で山ノ神となっていきます。猿田彦伝説庚申信仰の中で、見ざる言わざる聞かざるの三猿へとつながっていきます。

また、二見には蘇民の森公園があります。初めて訪れた公園の蓮池で以前住んだ中国の蘇州を思い出しました。夏は蓮の実を蓮台ごと庭園で売っていました。そのまま実を外し緑の皮を剥いて食べます。70円くらいで山盛り、ほんのり甘くて美味しいのです。夏の楽しみでした。日本ではこの習慣がないですね。中国では蓮の花が庭園一杯に咲き誇ります。思わず、この公園の蓮から種を取って食べてしまいました。懐かしい味でした。同じ味でした。

二見町の家々には面白い門符が飾っていました。初めて見ました。蘇民将来子孫家之門とあります。これは蘇民護符と言われ、伊勢のものは注連飾りされ、裏には陰陽道の呪文が記されています。護符自体は中国の霊符から。道教の流れ。元々、中国同様肌身離さず体に着けているのが本筋。然らば蘇民将来とは?奇妙なことに人の名前だそうです。昔、旅の途中で宿を乞うた武塔神を裕福な弟の巨旦将来は断り、貧しい兄の蘇民は粗末ながらもてなした。後に再訪した武塔神は、蘇民の娘に茅の輪を付けさせ、彼女を除いて、巨旦一族を皆殺しにした。武塔神はみずから速須佐雄能神と正体を名乗り、以後、茅の輪を付けていれば疫病を避けることができると教えたとしたそうです。この「蘇民将来信仰」は朝鮮半島の渡来人によって、尾張国津島、備後国福山など都の周辺部に伝わり、都への伝承は西暦7~8世紀頃と推測されるようです。更に話をややこしくするのが、本地垂迹です。武塔神速須佐雄能神更に牛頭天王となり、八王子伝説へとつながっていきます。総本山は京都祇園社です。即ち中国からきた道教日本で独自進化した陰陽道、更に朝鮮由来の神話が織りなす神道と結びつき、インドに結びつく仏教へと組み込まれます。ここで四つの信仰の融合が何とも言えない神秘な世界を醸し出します。正に海に囲まれた島国だからこそ生まれた不思議な信仰とも言えます。最早元の信仰は中国でも朝鮮韓国でも失われています。日本でこそ生まれた信仰となって日本中に広まったのです。

これを可能にしたのは伊勢独自の文化でしょう。海女の安全への祈願。海女は陰陽道の呪文を唱え、海に向かいます。蘇民護符にある五芒星(セーマン)と九字紋(ドーマン)です。陰陽道と神道をつなげたのは役行者に代表される山伏です。熊野から伊勢へ陰陽道の道が見えます。陰陽道は道教の一つ。日本において道士を中国から呼ばず、陰陽道のみ採用し、安倍晴明が日本独自のものとしました。伊勢神宮においては道教太一教も奉っています。正に神道と道教の融合です。これは天武天皇の意思。伊勢神宮に天照大神を祀るようにしたのも天武天皇です。伊勢神宮を創建したとされる倭姫命より草薙剣を賜り東征に向かったのは日本武尊、最後は疲れ果て、体が三重となり伊勢で亡くなりました。日本武尊速須佐雄能神に重なります。

徐福から蘇民まで道祖神として猿田彦と妻の天宇受売命が導いた伊勢の文化に異国の薫りを感ぜざるを得ません。徐福の連れてきた民の遺伝は今も伊勢に脈々と流れているのでは?これは伊勢茶瀬戸物にもつながるものでしょう。私は最早伊勢を離れ、更に6年旅を続け、中国上海・蘇州に再度戻ることができました。しかし、中国という広大な大地を前に首を垂れ、夢は潰え、日本に戻り引退への道を選びました。今、自分の歩いてきた人生の旅路を振り返って、伊勢で中国から日本への大きな文化の流れに接することができたことが一番幸せでした。この文章を書くにあたりまして、大屋行正さんの書かれた「伊勢志摩地方の蘇民符と注連縄」を参考とさせて頂きました。文末で恐縮ですが、添付させて頂きますと同時にここでお礼を申し上げます。素晴らしい調査結果に感嘆しましたと同時にお元気であれば90才を疾うに越えられているのではとご推察申し上げます。ありがとうございました。

投稿者: ucn802

会社というしがらみから解き放されたとき、人はまた輝きだす。光あるうちに光の中を歩め、新たな道を歩き出そう。残された時間は長くはない。どこまで好きなように生きられるのか、やってみたい。

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