
今、日本はロシアとの対決姿勢をアジアで唯一鮮明にしている。これは米国の意向に従った陽動作戦の一つに過ぎないと信じる。日本は自国を守ることを米国に委任しているから仕方ない。しかし、忘れてはいけない、熊の恐ろしさを一番知っているのは戦った猟師だ。日本が最後に戦った国はどこか?米国でも中国でもない、今はロシアとなったソ連。日本が無条件降伏を世界に宣言した1945年8月15日の後もソ連は満洲、朝鮮、南樺太、千島列島に侵攻してくる。将に死体蹴りだ。宣戦布告はこの6日前、日本はソ連参戦によりポツダム宣言受諾を決めたのだが、彼らは戦闘を止めなかった。ソ連の参戦と報酬は6ヶ月前の2月に既にヤルタの密約として決まっていた。東京大空襲の前、既定路線だった。これが分かるのは関東軍を駆逐した満洲をソ連は領有せず、当時の中華民国に渡し、旅順港、大連港のみを収穫としたこと。一方、全樺太、千島列島を領有しながら、北海道には攻めてこなかったこと。米国のテリトリーである。侵攻した朝鮮半島を領有せず、一旦連合国、実際は米ソによる分割統治としたことである。太平洋戦争で相互の中立条約により日ソは戦火を交えていない。寧ろ日本は敗戦に向け対米講和の斡旋をソ連に頼み、逆に弱みを曝け出してしまう。頼む相手を間違えた。藪蛇、足元を見られ、中立条約を一方的に破棄され、火事場泥棒的に攻められる。しかし連合国側のソ連は密約に従っている。日本との条約違反も悪の枢軸国に対する連合国にとって正義。忘れてはいけない。日本はナチスと手を組んでいた。同じ枢軸国側であったナチスは独ソ不可侵条約を一方的に破棄しソ連に攻め入り独ソ戦に突入している。連合国側にとってソ連の条約違反はナチスへの仇討ちに等しい。然もソ連はドイツとの戦いで犠牲者 2700万人に及びながら勝利し、連合国としての確固たる地位を獲得している。後は戦勝国のうち分け前をどのくらいもらえるかになっていた。ソ連の違法行為や火事場泥棒を日本が裏切り行為と糾弾しても所詮負け犬の遠吠えに過ぎない。既にこの時に連合国側米英露中仏の5か国中心の国連の枠組みが作られた。今も連合国支配は続いている。

ソ連対日参戦は原爆投下と共に大日本帝国の息の根を止めるに充分だった。ソ連は侵攻に総兵力147万人、戦車・自走砲5250輌、航空機5170機を投入してくる。対する関東軍は総兵力68万人。戦車は200輌、航空機は200機に過ぎなかった。戦力を東南アジア線戦に取られ、最早ソ連軍に対抗できる戦力は保持できてはいなかった。連合国側は全てお見通しであった。満州は所詮日本の傀儡政権に過ぎず、自国軍はなく、日本の敗北は即満州の消滅であった。朝鮮も然り、日本の敗北宣言した日は即解放記念日となる。結果として日本側の死者は将兵約8万、民間人約25万、捕虜約60万、散々たるものだった。

ソ連対日参戦の敗北の意味するものは、日本が最早死に体にあったからだけではなく、ソ連のナチス撃破以降、破竹の勢いの強さにあった。その後の中国国共内戦、朝鮮戦争とソ連は社会主義国家の設立に成功し、アジアからアフリカ、中南米まで戦後の世界の枠組みも作っていく。世界の半分を社会主義国家として赤く染め上げる。しかし、これはソ連の社会主義という教条主義に見え隠れするロシア帝国本来の覇権主義があることを東欧の国々は見破っていく。中国もまた然り、ソ連から離れていく。更にソ連内部での経済の停滞、硬直化が進み、崩壊していく。社会主義経済の難しさがある。柔軟性のない経済は硬直停滞せざるを得ない。世界経済は既に欧米を中心にイノベーションの時代に突入していた。中央集権的な覇権主義に対してソ連内部の共和国においても反感が生じ、最早同じ船に乗らず独自の経済発展を模索する時期に来ていた。1989年にベルリンの壁は壊され、1991年に多くの共和国は離脱を遂げ、ソ連は崩壊した。しかしここで勘違いしてはいけない。ソ連は、単に覇権主義の純粋なDNAを有するロシアに戻ったに過ぎない。

嘗てのロシア帝国は世界の1/6を占める2,280万㎢の領土を有していた。ソ連時代であっても2,240万㎢の領土は確保していた。新生ロシアは1,710万㎢と栄光のロシア帝国に比べると約1/4の領土を失うこととなる。それでも世界一の面積を有する国で、次のカナダが998万㎢、1.7倍になる。広大な土地がロシアにもたらしたものは豊富な天然資源。石油、石炭は世界三位の埋蔵量、天然ガスに至っては1581兆立方フィートで、全世界の1/4を 占め世界最大。 これは二位のイラン(16%)を大きく引き離している。外貨の半分は鉱物資源で得ている。ヨーロッパからアジアにまたがる大地は各地で採れる鉱物資源を安く早く大量に需要先に供給できるメリットをもたらしている。広大な大地はロシアの生きる糧。大地の恩恵をどの国より受けている。従って、天から与えられた恩恵を独り占めするため、時によっては、天の要求以上に戦わなければならない。分けても鉱物資源の確保を重視し、供給網や市場を脅かす国には内戦を誘発し、分断、弱体化させ、反政府勢力への軍事的資金的支援によって政府転覆へと誘導する。それがジョージアとウクライナであった。今、ロシアが紛争地域として抱えているのは、他にモルドバとの沿ドニエストル共和国問題と日本との北方領土問題であることを忘れてはならない。ロシアの侵略は紛争を利用する。紛争地域からの支援要請を口実に戦争を開始する。これがロシアの常套手段だ。

ジョージアは1/3に及ぶ地域がロシア軍によって分断された。ソ連時代黒海の真珠と嘗て言われたアブハジア自治共和国は1999年にジョージアから独立を宣言しているが、ロシアの後押しなしではありえない話で、単なる民族問題で分断されたかと言うと怪しい。アブハジアでは45%がジョージア人であり、アブハズ人に至っては17.8%のみだった。南オセチア自治州についてはロシア内の北オセチアとの統合オセチアとしての独立が主眼であったが、ロシアからは拒否されている。2008年、南オセチアへのロシア軍増強を見たジョージア軍がロシア軍と武力衝突に及び、戦争に発展した。将にロシア得意の喉元に匕首、結果としてジョージアは敗北し、両共和国をロシアは独立を承認し、ロシア軍は平和維持を目的に常駐し、この地域のロシア化を進めている。後のウクライナ戦争とは違い、ロシアはジョージアとの全面戦争とはしていない。ウクライナはこれを見て油断した。アゼルバイジャンにおけるナゴルノカルバル自治州はアゼルバイジャンにありながらアルメニア系住民の多い地域で、長く続くこの紛争にロシアは介入し、軍隊をジョージアの各自治州同様派遣している。アゼルバイジャンとジョージアが欧米向けのBTCパイプラインがカスピ海から地中海へ敷設し、ロシア経由を避けたことに原因があると見られている。ただ、ロシアは2020年アゼルバイジャンと停戦合意に至っており、自治州の縮小を認めている。全面戦争には至っていない。喉元に匕首で終わっているが、恐ろしい脅しには違いない。モルドバにある沿ドニエストル共和国もロシア軍が駐留し、睨みを利かしている。モルドバがルーマニアに近づきすぎないためであったが、今はウクライナにも向いている。ロシアはクリミアと繋げ、回廊を築こうとしている。ウクライナは四面楚歌になる。ウクライナには更に厳しい締め付けが待っていた。国連が認めないとしても常任理事国のロシアは拒否権の行使ができる。




2014年、ルガンスクとドネツクの両人民共和国がウクライナに独立宣言した。親ロシア派による建国宣言で、歴史的に鉄鋼業の集積地で、ロシアからの労働者移民の多い地域ではあった。同様に独立宣言を行ったのがクリミア共和国で、鉱物資源の多いアゾフ海や黒海沖を抑えるためにも重要な拠点である。こちらは独立し、即ロシアに帰属を求めることになる。クリミア半島西南にはロシアの軍港セヴァストポリがあり、ここも特別市としてロシア連邦へと組み入れられる。欧米は独立を認めず、ロシア制裁に入ったのは周知のことだ。ルガンスクとドネツクをロシアが独立国と承認したのはウクライナへの侵攻の数日前で、同時に相互支援協定も結んでいる。国連憲章の集団的自衛権を根拠に両国を守るためウクライナを制裁する、即ち武力侵攻を正当化するためだ。将に詭弁。第三国内の分離独立を求める地域の独立を第三国の了承なしに認め、支援協定を元にその国を侵攻することは正しいということになる。ソ連時代の覇権主義が蘇った。ウクライナにとっても東部地域は重要な稼ぎ頭であり、更にクリミア半島は黒海の要所を失う意味でそうおいそれと手放すことはできない。しかし牙を剥いた熊は恐ろしい。ロシアからヨーロッパに向かうパイプラインはほぼウクライナ経由になっており、何としても抑える必要もあった。

2月24日に戦争状態に入ったロシアのウクライナへの侵略は東部ドネツクからマリオポリを陥落させ、クリミア、ヘルソンまで達している。この戦争は2014年のドンバス戦争の当然の帰結と見える。最早怒る熊の牙を抜くことはできない。ウクライナも必死に防戦せざるを得ない。NATOは全面的に支援し続けるであろう。ロシアはこの戦争により完全に信用を失う。どういう結末になろうとロシアの権威は失墜する。ソ連時代から築いてきた国連における地位は各段に落ちるだろう。国連の体制の見直しも行われる可能性まで起きている。ただ、日本の立場として気を付けなければならないのは手負いの熊に気を付けろということだ。ロシアはけして領土は拡張するが、失うことは許さない。おいそれと北方領土を言うと手痛いしっぺ返しが飛んでくる。それが熊の怖さだ。日露戦争でロシアに勝ったと勘違いしたことが、太平洋戦争の悲劇を生んだことを忘れてはいけない。熊は必ず牙を剥いて襲ってくる。そんなに甘い国ではない。今は後ろ盾となっている米国も日本に対し、米国の許せる範疇でしか安全を保障しないであろう。米国もニカラグア、ベトナム、イラン、イラク、アフガニスタンで敗北し、方向転換を図らざるを得なくなった。矩を踰えてはならない。

ロシアの侵略戦争によりウクライナの民間人の死者は3000人を超えている。軍人の死者は民間人より実際少ない。この対価に値する成果を生み出せるのか?ウクライナ政府は国民に回答を出さなければならない。戦争は外交の失敗であり、戦争の前に解決しなければならないことがある。ウクライナの大統領はロシアの大統領と戦争を開始するまで会話がなかったことが最大の問題ではなかったのかということだ。一方ロシア軍の死者は傭兵を含め23000人を超えている。攻めている側の方が死者が多いことはこの戦争が割の合う戦争ではなかったことを示している。「起こりうる流血に対する全責任は、すべてウクライナの領土を支配する政権の良心にある」とロシアの大統領はこう述べてウクライナ爆撃を開始したのだが……..戦争は両国にとり悲劇以外の何物も生みださない。同じ民族同士で殺し合う意味と結末をはたして両国は理解しているのであろうか?
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