小笠原で鯨の咆哮を聞く

小笠原諸島父島は東京都下にも拘らず、船で1昼夜丸1日掛けて行かなければいけない。東京から世界で一番遠い東京。東京から直行便で最も遠い空港が米国ニューヨーク12時間55分。この2倍近くかかるからだ。父島には飛行機では行けない。民間空港、滑走路がない。戻りの船は3日後。船中2泊、父島に3泊、計6日最低でも掛かる。今の時代、こんな不便で非効率で不経済な旅がこの日本に、しかも東京に残っていることに驚かされる。

小笠原諸島は緯度でいうと奄美群島と変わらない遥か南の島。竹芝桟橋からほぼ1000km、若干南南東へ下る。更に下れば米国領マリアナ諸島のサイパン・グアム日本で一番米国に近い海界。直線距離で比較すると東京羽田から韓国釜山、鹿児島屋久島、北海道旭川への距離に重なる。飛行機であれば2時間程度、しかもこの時期釜山往復最安値39,049円、屋久島往復32,055円、旭川24,740円なのだが….乗る船はフェリーでクルーズ船ではない。然るに往復の船賃は屋久島への飛行機代の2倍以上になる。

船旅から民宿の予約まで、初めてなので旅行代理店にお願いした。船の往復に68,420円。小笠原より遥かに離れた沖縄でもこの時期、飛行機で往復最低14,620円5時間10分1/5の費用と時間で沖縄までの1887km、約1.9倍の距離を往復できる。宿泊費は民宿に3泊朝夕食込みで23,940円だったが、沖縄の民宿最安値で39,740円、15,800円高くなるが、飛行機と宿代で船賃以下に抑えられる。ホエールウォッチングツアー代で比較すると半日コースで父島は1日コース13,000円(10%値引き可)、半日で8,000円(5%値引き可) 、一方沖縄は値引きなしで9,500円と5,200円になる。沖縄のツアー費用は3/4で済む。トータルで見ても沖縄であれば小笠原までの船賃並みで充分ホエールウォッチングが楽しめることになる。父島へ向かうおがさわら丸の乗船率は1/3、コロナの影響はあるとしても観光に多大な費用、時間、労力を割く今の形が将来的にリピーターを増やすとは考えられない。それでも小笠原に向かう魅力は何処にあるのか?まずはこの旅を振り返ってみたい。

小笠原への旅は時間が取れる退職後の楽しみにしていたが、コロナ禍で3年近くお預け。やっとコロナも落ち着いてきたので、昨年11月に船旅を予約し、満を辞して船出。2023年2月5日(日)朝11時、立春は過ぎた。寒さは変わらないが、晴れ渡った風のない船出に絶好の日和。天気予報では晴天は明日迄でそれ以降荒れるとのこと。不安の船出ではあった。旅の予約は3ヶ月前だったので、どうしようもない。長い船旅の楽しみは太平洋を望みながら酒を呑むくらいしかない。この時期は決してハイシーズンではない。吹き荒む風と荒れる冬の海、不規則に揺れる船に晩は閉じ込められる。これが往復2日。何故この時期に?

を見るためだ。にとってはこの時期がハイシーズンになる。狙う鯨はザトウクジラ1〜3月にかけ小笠原沖縄、ハワイ、バハ・カリフォルニア近海で子育て、繁殖を行い、夏場にかけ、アリューシャンアラスカ沖でオキアミを鱈腹食べる。数千キロを旅する鯨だ。小笠原は元々捕鯨基地として米国人が渡ってきて開拓した島だ。今も子孫が残っている。同じ捕鯨基地として発展したハワイとつながる。米国人は鯨を追いかけ、数千キロの海を越えてこの島に捕鯨基地を作った。この捕鯨基地こそ日米の接点になる。ペリー提督が最初に訪れたのもこの小笠原になる。日本に捕鯨の寄港地として開港を求められ、鎖国から開国へと向かう契機となった。この第一歩が正に小笠原であった。鯨を見るならハワイか小笠原と思うのが筋ではないか。尚、1月は正月客、3月は学生の卒業旅行で混むので2月を狙っていた。第一週が狙い目になる訳だ。この時期は一年で一番寒く、ただ降水量は少ない時期、しかし、最低気温は14℃を下回らない。

ザトウクジラの魅力は大きな前ビレの躍動感と見事な尾ビレによる跳躍力だ。体長14m,30tに及ぶ身体を海から突如、宙に泳がせ、波飛沫と共に海に叩きつける。この迫力で見るものを圧倒する。鯨は今や地球上最大の生物であり、我々と同じ哺乳類、恐竜が滅びた後巨大哺乳類が地上を席巻した5300万年前に陸を捨て海に生きるようになった。新生代初期に登場し絶滅した巨大化した哺乳類の唯一の生き残り。一度は生で見たい、映像に残したい。若い頃ハワイのマウイ島へ見に行ったが、遠くに尻尾のみ見て帰ってきたことがある。写真にも残っていない。何とか宙に跳ぶ鯨の勇姿を拝みたい。その一途で父島滞在の3日間を全てホエールウォッチングツアーとした。

私はついつい焦って旅行代理店経由で船と宿泊をセットで予約したが、同じ宿泊先に泊まった学生に聞くと、小笠原海運おがまるパックが安いと言う。確かに1番の費用は船賃だ。船賃を抑えているのは小笠原海運であり、この費用を下げるにはここに予約を入れるのは筋であった。しかも現地でのホエールウォッチングツアーは自分で予約をしなければならないので、旅行代理店に任せる意味がない。もしこのブログを読まれて行こうとされるか方は是非小笠原海運の下記hpを訪ねてほしい。https://www.ogasawarakaiun.co.jp/ogamarupack/                 今回、旅行代理店の当初の見積は船往復2泊と民宿3泊2食付セットで92,000円、船中泊は2等和室になっていた。私はトイレが近いので2等寝台に変えてもらった。追加料金は8,360円、ところがおがまるパックではそもそもが同料金で2等寝台になっている。最安値は3泊83,000円がある。しかも港に近い民宿。旅行代理店に任せる前に船会社を当たるべきだったと後悔している。もっと言えば、船はハイシーズンではないので空いている。寝台の上下を占有できた。クーポンもあるので安いツアーを予約できる。鯨の出没する場所はほぼ限られるので、どのツアーでも心配はない。この時期小笠原は20℃そこそこなのでスノーケリングはお勧めできない。実際寒かった。

24時間の船旅は肉体的以上に精神的に堪える。何もない海の上、しかもこの時期は一年で最も寒い。乗船はJR浜松町駅から歩いて15分ほどで着く竹芝桟橋。沖縄や海外に行けない学生の手軽な旅先だった伊豆七島へ向かう港だった。久し振りに訪れてきれいになったことにまず驚かされた。変わらないのは桟橋のシンボルの帆と舵のモニュメント、そして新島モヤイ像。この日は天気が良く暖かだったので、夕暮れが迫るまでデッキで東京湾から三浦半島、房総半島、伊豆七島が望める景色を楽しめた。デッキは眺望も良く、出航時から、スカイツリー、東京タワーまで望め、更にレインボーブリッジを越え、羽田沖で飛行機の離着陸、湾外へ抜ける際は海ほたる、東京湾に迫る房総半島や三浦半島の山並み、間近に大島から八丈島まで伊豆七島を眺めながら遥か小笠原に向かうことを実感できる。

この時期海の上は南の島へ向かっているとしても寒い、フェリーは風を切って洋上を走るので、デッキの上では潮風が体温を奪い風邪をひいた。天気がいいので、船内売店のショップドルフィンで買った、つまみに島レモン酎ハイを飲んで、最上デッキでうたた寝して喉を痛めた。迂闊だった。風邪薬が足らないので往生した。デッキでは厚着にマリンジャケットは必須。波が風に舞う。午後3時過ぎには寒さに耐えられなくなり、船内に入る。そして朝明るくなるまで船内の時間となる。18時間以上が船内。どう時間を潰すかが勝負なのだが、何せコロナ禍でおいそれと他人に大きな声で話し掛けられないのが辛い。情報交換が旅の途上では命なのだが、これができない。を数冊持ってくるべきだったと反省している。船旅中、ほぼインターネットは繋がらない。携帯の充電箇所も限られているので、居場所を探すのに往生する。最上階の展望ラウンジがあるが、いつも一杯で、座るのが大変。只管座る場所探しだ。船内は清掃がゆきとどいており、トイレもシャワー室も寝室も快適だ。ごみひとつ落ちていなく、臭いところもない。空調、温調とも快適でトレーナー上下サンダルで過ごせる。但し、船内はいつも波のため、不規則に揺れており、歩き回るのがしんどい。4階から7階まで上り下りだけでも実際大変。一番助かったのは寝台で隣り合った方と知り合いになり、情報交換ができ、上陸後、ホエールウォッチングのツアーで映像を頂けたことだった。

食事は船賃にセットになっていない。高くなるのは致し方ないだろうが、酒と定食で2000円は下らない。カップ麺は船内で売っているので、安上がりに済ます手はあるが、寂しいので、基本は地酒の酎ハイ小瓶700円、島レモンもしくは小笠原パッションとした。少々高いが小笠原パッションがキリッとした味が出ていて美味い!お薦めだ。昼はデッキで飲んだ後、レストランChichi-jimaで島塩ラーメン900円、夜は小笠原パッションチューハイと長芋漬けと軟骨唐揚げ、計1,800円、翌朝は展望ラウンジHaha-jimaで朝日を眺めながらサンドイッチとゆで卵とコーヒーで750円、まあこれで十分だった。

島での3日間はあっという間だ。風邪気味でしんどかったが、何とか無事遊び終えた。南の島ではあるが、決して常夏の島ではない冬ではないが夏ではない春の気候と言える。スノケールの選択は間違い(年寄りの冷や水)で、船上から鯨を見る程度に抑えるべきだった。靴の選択を間違えた。マリンシューズが必要だった。赤島に三度も行くことになるが、サンダルではきつい。砂浜や岩場を歩かなければならない。私の選んだツアーをご紹介しよう。

  1. 2023年2月6日(月)13pm〜16pm: 青灯台から出発ホエールウォッチング:竹ネイチャーアカデミー半日コース;8,000円(クーポン5%割引あり) …下の画像をクリックするとこのツアーで見た鯨の姿が動画で見られます。

https://www.youtube.com/watch?v=-hcp5UB1azE&t=14s             ツアー開始の2時間前の11amに島に着いた。昼、ハートロックカフェで景気付けに母島ラム酒で海亀の煮込み(1,800円した)をかきこんで、青灯台に集合。因みにこのハートロックカフェはハードロックカフェのジョークかと思ったが、後でハートロックが実際に海から見られて、なるほどカフェの由来と納得。ツアーには体調悪し、喉が痛いが耐える。ザトウクジラの群れは南島からの帰り、海峡近くで見られた。mating podと言うらしい。要は雌を巡って雄数匹が沖で張り合う。空はどんよりとしている。但し風はそれほどでもない。気温は20℃だが、小型船上は波をかぶるので寒く感じる。船上でマリンジャケットマリンシューズが有用。

2.2023年2月6日(月)19pm〜21pm: ナイトツアー:竹ネイチャーアカデミー;4,000円(クーポン5%割引あり)

そんなに大きくはない。

小笠原のナイトツアーは2日目の予約だったが、ショップから、天気が荒れそうとのことで、急遽到着した日の晩に変更された。2日目には別途ホエールウォッチングの予約を入れており、中止になると思われ、然らば、体調悪しだが、無理しても良かろうと従うことにした。島に着いたばかりで余りにも無理しすぎであった。まあほぼ歩かず、車での移動なので助かったが、メインと思われる小笠原オオコウモリは決して飛び回る姿を見られる訳ではなく、ただ果物を食べている姿を見るだけになる。このオオコウモリ、島唯一の原種の哺乳類であり、ほぼ木の実のみ食すという平和な動物。小笠原は北限で、寒さに弱いとのこと。グアムでは美味として食べ尽くされ、小笠原では植えた果物を食べられるため害獣として駆除され、既に絶滅したものとみられていたが、幸運なことに生存が確認され、天然記念物として保護されるようになり、今は我々でも見られるようになったようだ。出会えただけでも幸せだったのだろう。

3. 2023年2月7日(火)9am〜16pm:嵐の中ホエールウォッチングに出発:小笠原観光1日コース;13,000円(クーポン1割引あり)..下の画像をクリックすると鯨の動画が見られます。

朝から凄い雨と風、体調最悪、流石にホエールウォッチングツアーは中止と思いきや、船長は出ると言う。既に代金を1万円以上払っている。払い戻しは効かない。致し方ない。黙って船ベリに齧り付いてクジラを見るしかない。果たして見られるかが問題だった。午前中嵐に耐え凌ぐと、船長の言う通り午後から晴れた。晴れたらザトウクジラが船に寄ってくるではないか!子鯨が、母鯨の背に乗って船の舳先近くを通ってくれた。苦あれば楽あり。何とか乗り切れた。小笠原父島の二日目。毎回鯨の姿が違うのが嬉しい。船長が言うには鯨のブリーチングは滅多に見られない。年に6回見られればいい方とのこと。ブリーチングする時鯨は吠える。ワオーと。本当か?想像するだけで身震いがする。何としても見てみたいものだ。果たして幸運は舞い降りるのか?

4. 2023年2月8日(水)9am〜15:30pm: ツアー最終日ホエールウォッチング:竹ネイチャーアカデミー半日コース;9,100円(クーポン5%割引あり)…下の画像をクリックするとこのツアーで見た鯨の姿が動画で見られます。

いい天気だが波高し
ホエールウォッチングルート(緑色)と鯨のブリーチングが見られた場所(海上の最南東の赤色部)

今日は風が強く、天気はいいのだが、寒く感じる日だった。船は波が高いため、揺れる揺れる。ザトウクジラは最終日と分かってくれる訳でもないのに、何度もブリーチングを見せてくれた。感謝感謝としか言いようがない。凄い迫力だった。3日間、様々な姿を見せてくれた。体は万全ではなかったが、なんとかクジラのおかげで乗り切れた。映像は私のだけではなく、同船者がくれたもの。神がかりの映像をいただき感謝している。これだけの映像があれば満足以外の何者でもない。

民宿について:今回旅行代理店の朝夕付いた民宿とのことで一択しかなかった境浦ファミリーを選んだ。しかし私のように足がない人間にはやはり港近くが良かったようだ。バスの便が少ないし、海が望めない店が近くにないので、薬の購入に苦慮した。ツアーの送り迎えがない場合、民宿に頼まなければならない。時間的余裕が生まれない。ツアーの後車で送られ、街歩きができない。夜の街で飲む楽しみがないと情報交換もできない。食事はおいしかったが、やはりホエールウォッチングのみの目的であれば、港近くの民宿をお薦めする

最終日2023年2月9日(木)9am〜14:30pm:出発は15時。朝9時には港に送ってもらい、のんびり港の周りを歩く。天気が良かった。内地であれば春のような陽気。ただ日差しが強いのが南国の証か?港から外れた場所にある小笠原海洋センターに行き、アオウミガメを見た。頭頂の幾何学模様がなんとも美しい。鯨と同様、陸から海へ適応した動物。卵は陸に上がって生むところが故郷を捨てきれない証拠。鯨と違い、手足が残っている。これは残したと言うのが正解だろう。体を防御する重い甲羅を水中で保持して泳ぐには手足はバランスを取るためには必要。長い手足はこのためにある。ただ泳ぐスピードを度外視しなければならない。簡単に捕まるので人間は食材にしている。メキシコのカリブ海に面したカンクンに行った時は海亀牧場があって、食糧扱いにしていた。あの時食べようなんて思うことはなかった。そういえば中国の武漢では水亀の姿煮を食べていた。日本では昔からスッポン料理をたべている。亀は昔より人間の食材として最適だったのだろうか、なんてウミガメを見ながら思った。最終日になって初めて小笠原ビジターセンターに行くことができた。小笠原の歴史を知るためには必ず訪れなければならない。小笠原諸島の歴史の面白いところは、1543年にスペイン船が最初に発見し、英国、ロシア、オランダの船が次々に訪れ、1593年になって日本として小笠原貞頼が無人島として発見しながら、手つかずで、実際は捕鯨基地として米国人が移り住み、1830年以降開拓され、米国領となるところ、米国は力づくで領土とせず、一方住人も日本領を選んでいる。平和的だ。太平洋戦争後米国領となりながら平和裡に1968年に日本に返還されている。しかし、東京から更に遠い、米国領のサイパン、グアムには飛行機が飛び、観光のメッカになっている。日本領を選んだ小笠原との差は歴然だ。正に光と影のように感じる。夏は盆踊りで賑わうと言う大村海岸を歩いて商店街に戻る。今も盆踊りが賑わうところに失われた日本の文化を島でこそ味わえる一抹の侘しさを感じる。私はオープンカフェが好きで、商店街の公園に面したパパスアイランドリゾートhaleのテラス席で地ビール「ボニンクラフトビール島レモン」を飲みながら海鮮丼ランチを頂いた。1,860円也。写真は撮っていないが、土産物屋は3軒ほどで薬屋や雑貨屋を兼ねている。地元産の島のりレモンカード(レモンバター)、ジャムのレモンパッションフルーツグアバ、単価600〜700円ほど。かさばらず、腐ったり、割れる心配もないので重宝だと思う。土産物屋ばかりの沖縄を知る人間には驚かされる質素さと値段の高さだ。小笠原の物価は正に東京並みだ。14時半には港に着かなければならないのでゆっくりはできなかった。港には鯨のモニュメントがあり、鯨の基地であり、日本最初のホエールウォッチングを始めた誇りを表している。港は去る旅人、見送る島の人々が別れの挨拶を交わしていた。

別れのとき:まず小笠原太鼓が別れのときを告げる。安全祈願と再会を願う太鼓だ。出航と同時に一斉に見送りの声と旅立つものの受け応えが港一杯に響き渡る。「いってらっしゃい」「ありがとう」「また来てね」「また来るぞ」「バイバイ」「ありがとうございました」「気をつけて」「またねー」子どもが一斉に「いってらっしゃーい」涙が堪えきれない…誰もさようならとは言わない。言えない。皆、ただ手を振る。モーターボートがどこまでもフェリーについてくる。最後は見送る若人が舳先から飛び込む、青の灯台から子供たちが飛び込む。別れに花を添える。この風景は変わらぬ儀式なのだろう。下の2つの画像をクリックすると動画で確認できます。雰囲気を味わって下さい。時は永遠です。

おがさわら丸見送りのあいさつは『いってらっしゃい』

帰りの船で:午後3時乗船なので、夕暮れが近いことから船内で過ごすことが多くなる。船内は静かだった。嵐の前の静けさか。内地は雪と予報では告げており、船外デッキは立っていられないほど風が強く、寒くなっていく。船は揺れた。到着は1時間遅れることになる。展望ラウンジHaha-jimaはお陰で空いている。荒れた海を望みながらコーヒーを啜っていた。晩御飯は奮発してレストランChichi-jimaでタラカツチーズ定食と小笠原レモン酎ハイ計2,200円也、タラのカツは衣サクサク、衣にチーズが絡んで旨味を増す。中のタラはジューシー、なかなかだ。島レモン酎ハイは癖がなく、何の食事にも合う。満足の一品。翌朝もモーニングもレストランChichi-jima、500円でサラダ、目玉焼き、パン2個とフルーツはリーズナブル。コーヒーは250円で別途。丸窓から朝の海を望みながら朝食は格別。昼は展望ラウンジHaha-jimaで最後の食事島塩ハチミツトーストとホットコーヒー1,300円、少々高いが、アイスクリームとハチミツで焼きたて厚切り食パンは味がパンに染みて美味い。尚、後でわかったが、行きと帰りで100円クーポンを使えたようで、失敗した。

小笠原の旅を振り返ってみた。鯨の迫力は沖縄、否、ハワイ以上であろう。この迫力を日本中、否、世界中に伝えたいが、しかし、そのために往復68,420円船泊2日では、他人に勧める自信がない。1/5費用時間でしかも羽田から行ける沖縄に軍配があがる。金と時間を持て余している層にはいいが、実際、金を落としてくれるのはリピーター富裕層海外の顧客だ。彼らの要求に応えるには他のリゾートに比較し、格安気軽に行ける旅にしなければならない。往復交通費を下げるには羽田から飛行機で行ける航空便が絶対必要になる。

私は冥土の土産で小笠原に向かったが、冥土の土産は一生に一度の意で、一見さんの要求に応える意味はないかもしれない。ただ、他の老人にとっても小笠原への旅はキツイ工程に違いない。増して小笠原の住民にとって大変なことだ。まだ小笠原は日本一若い島で、平均年齢が38歳と信じられないが、医療生活老後を考えた時、交通の便は解決しなければならない。2,583の島民のためにも交通の便の改善は必至だ。常々思うのだが、他国と領土問題でも揉めている竹島や尖閣列島は無人島だ。北方領土についてはロシア人が住んでいる。寧ろ、今、国境に住む国民の生活を保全することこそ一番の国防ではないのか。揉めることによって金が飛んでいくことより、今国境に住む住民の生活を守り、安定させる方が余程効率の良い財政投融資になる。小笠原という観光資源が一番の外貨獲得の場だけでなく就労の場にもなり、領土保全につながる。

小笠原全体を考えると父島に空港を設置し、ハブ空港とすべきなのだろう。洲崎に海軍の空港跡地がある。世界遺産の島である。新規開発は難しい。拡張して滑走路とするのが間違いない。飛行場ができたら、周辺と結びつけた観光開発も必要だ。硫黄島を島民に返還し、第二の観光地として解放すべきだ。滑走路もある。飛行機で父島、沖縄、サイパン、グアムをつなげることにより新たなエコツーリズも提案できるのではないか。観光は平和の象徴だ。これは島民の夢でもある。そして島こそ平和の象徴だ。日本の戦争は島を中心に展開された。2度とこの悲劇を繰り返してはならない。

レインボーブリッジが見えた。竹芝桟橋が見えてくる。私の鯨を追いかけた6日間の旅が終わろうとしている。海上スレスレを渡鳥が内地に向かって飛んでいく。渡鳥は島を渡りながらやってくる日本の文化も島伝いにやってきたことを忘れてはならない。今一度という原点に立ち返って我々がどうあるべきか、見直す時期に来ているのではないか。

広告

投稿者: ucn802

会社というしがらみから解き放されたとき、人はまた輝きだす。光あるうちに光の中を歩め、新たな道を歩き出そう。残された時間は長くはない。どこまで好きなように生きられるのか、やってみたい。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。