中華そばのなぜ

55年以上前、ラーメンなぞなかった。あるのは中華そばだった。しかも、中華そばは中華料理店で食べるもの。つまりラーメン屋なるものもなかった。中華そばは中華料理の一つで、けしてメインにはならなかった。まずチャーハン。チャーハンがあって初めて中華そばだった。しかも中華そばの汁はチャーハンについてくるプチスープ。甘酸っぱい澄んだ鶏ガラ醤油味。これにシャキシャキの刻みネギ。これが全く中華の味だった。日本にはなかった今も忘れられない味。家族で週末になると中華料理を街中まで食べに行くのが楽しみだった。店の名は珍珍亭。街角にあり、摩天楼の如き町一番の立派さで、外には街頭テレビがあった。イの一番に中華料理の主菜、チャーハンは外せない。そして中華そばになる。皿とどんぶりの縁には必ずグルグル模様、雷紋があった。家にもこのどんぶりと皿があった。これが中華料理の基本。器と料理が表裏一体だった。最早失われた光景と思いきや未だ残っていた。町中華だ。町中華はほぼ日本人の店主、中国なぞ行ったことがないし、中国自体に興味もない。顧客対象はあくまでも日本人。中華料理を継承しながら、中国とは全く無関係。只管、日本の中で全く日本的な中華料理文化を継承している。

中華そばが他の中華料理を押しのけ、主役に躍り出たのは日本の地域に根ざした味を生み出す麺と具とスープの三位一体の七変化の妙だった。更に即席麺を世に出す。中華そばの偉大さは日本に根付き、中国本国から離れ、日本独特のラーメン文化を創り出し、一方で世界中にインスタントラーメン文化をもたらしたことにある。チャーハンの端役だったのが、主役に躍り出て世界を席巻したことに驚かされる。

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日本生まれの中華どんぶりと皿

私は中国に長く駐在した。東から北、西、南至るところででラーメンを食べた。しかし、雷紋のインパクトあるデザインのどんぶりや皿を何処でも見たことはなかった。インターネットで調べると、何と日本オリジナルだった。考案したのは浅草かっぱ橋陶器卸商と言うから驚きだ。古九谷焼のデザインが元という。道理で我が家にもあった訳だ。今でもインタネットで購入できる。料理は器からという。中国趣味の器により日本の中華が本場の味に仕上がっている錯覚を起こさせることに一役買っているのに違いない。

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そもそも中華そばは中国の蕎麦のような麺料理の意味。中国ではありえない具が乗っていた。理由は中国の味付けに少しでも近づけるための苦肉の策。コスト日持ちを考えて編み出した赤いチャーチューナルト。更に日本人の拘る蕎麦の具を掛け合わせた意地が見えるのが海苔。中華そばは蕎麦ではない。寧ろ、うどんや素麺に近い。なのにそばと呼ぶのは何故?中華そばからラーメンになったのは何故?何処が違うのか?考えれば考えるほど不思議な魅力が尽きない中華そばは今や日本のソールフードとなった。

昔ながらの味!横浜といえば【赤い叉焼(チャーシュー)】 | 中華工場直売所 好(ハオ)の店長ブログ横浜名物赤い炭火焼豚
昔懐かしい赤いチャーシュウ

1.赤いチャーシュー:小さいころ、中華そばのチャーシューの縁が何故赤いのか、不思議に思っていた。中国でもラーメンに赤いチャーシューが入っていたのを見たことがない。このチャーシューは中国では明炉叉焼と言い、広東料理では飲茶の点心。焼いて紅糟に漬け込むので、日持ちするし、甘い味と色合いと固めの弾力ある食感がチャーハンに向いていて、切り刻んで入れていたのが焼き豚チャーハン。これを大きく切ったものが中華そばに入っている。両方に使えて経済的。こりゃ、チャーハンのスープの中華そば兼用と一緒。但し、焼いて干してあるため固く、柔らかな肉を寧ろ好む日本人の嗜好から煮込んだ三枚肉に今は変わってきている。正式に言うと最早チャーシュー(焼き豚)ではなくなったということ。

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ナルトとむきエビ

2.ナルト:中華料理に何故ナルトなのか?疑問に思っていた。勿論中国でラーメンにナルトなんて見たことはない。関西でも元々ないらしい。まして徳島の鳴門とは関係ない。中華料理ではむきエビが基本。しかし、コストからみるとかまぼこが断然安い。チャーハンではナルトが細かく切られて入っている。赤と白の色合い優しい触感海老の代替となる。しかもナルトはかまぼこに比べつなぎが多く、かまぼこの魚臭がなく、ぷりぷり感が少ない。中華料理にも合う。関東煮に入っている代表的かまぼこで汁の味を引き立てる。皆さんご存知か?関東煮の由来は中国広東煲湯からとか、山東省の魚丸を煮たものから始まったとか、将に中国と縁がある。本筋のかまぼこほど存在や味を主張せず嫌味にならない。中華そばでは、大きく輪切りしたナルトのデザインがどんぶりの縁の雷紋とマッチする。チャーハン、中華そば両方で使えるところに味噌がある。チャーシューに繋がる使われ方だ。ナルトが採用された訳がここにある。今もナルトは生きている。嫌味の無さデザイン的面白みも大きい実に理にかなった具なのだ。そして今や中華そばになくてはならない存在https://www.kibun.co.jp/knowledge/neri/basics/zukan/narutomaki/index.html

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中華そばと蕎麦とうどん

3.海苔:中華そばには海苔。これは蕎麦とうどんのワカメに呼応する。鳥ガラのスープにワカメは合わない。然らば海苔。あくまでも黒のアクセントに拘る日本食の特長を出している。中華そばは浅草で生まれた。海苔は浅草の誇り、忘れざるべきものだ。然もワカメと違い、海苔に嫌味がない中華そばの味を邪魔することはない。ナルトとかまぼこの違いにも通じる。

定期航路を見る|公文書にみる明治日本のアジア関与 -対外インフラと外政ネットワーク-日本商船・船名考 (ⅩⅩⅩⅩⅦ)
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1875年に始まる横浜上海定期航路の運行。日本で中華そばを誕生させたかん水と職人が上海から。

4.中華そばは何故そばなのか?:中華そばは勿論蕎麦ではない。蕎麦粉からではなく、純然たる小麦粉で作る。従って素麺やうどんの仲間である。然るにそばと呼ぶのは中華そば麺の細さとこしにあっただろう。それでは沖縄のそーきそばはどうなのか。太さはどう見てもうどん。実際、そーきそば中華そばが名の元。日本蕎麦とは関係ない。沖縄の中華そばの意。それでは素麺うどんと言わないのは何故か?違いはかん水を使っているか否かに過ぎないのだがこれが大きい。かん水が曲者。小麦粉を様々な形と色、食感、香に変える。中身の濃さを変えるだけで札幌ラーメンから喜多方ラーメン、九州ラーメンと変幻自在。正に魔法の水。かん水は梘水と書く。或いは鹹水。これは蒙古の鹹湖の水を用いたからで、この水で小麦粉を捏ねたとき独特の麺が生まれた。中国の麺の誕生。1700年以上前と言う。かん水はカリウム、ナトリウム、リン酸のアルカリ混合液で、戦後、日本は中国から入らなくなり、独自製造することになる。それまでは中国からの輸入。安定供給を可能にしたのが1875年に始まる上海と横浜をつなぐ日本初めての海外定期航路だった。定期航路の大きな意味合いはかん水輸入のみならず、中華料理の具材から道具、何より大きかったのは中国の料理人、麺職人の来日が可能になったことだ。横浜に中華街が生まれる契機にもなる、1910年横浜税関職員だった尾崎貫一氏が浅草に初めて中華料理屋来々軒を開店した。出したのは焼売とワンタンと柳麺(ラウメン)であった。料理長は上海人だ。今も祐天寺で続く来々軒はこの上海人の系譜でつながっている。柳面は細くこしがあり、まるで蕎麦の如きだったろう。上海人は細い麺を好む。味は正に甘酸っぱい澄んだ鶏ガラ醤油味。昔懐かしい中華そばの汁。私の追い求めた中華そばの味は上海で今も生きている。https://www.youtube.com/watch?v=PXDE5My7mSY

祐天寺の来々軒と元祖東京ラーメン

初めて中華そばを食べたのは水戸光圀公か否かで話題になっていたが、麺と言えば既に素麺うどんが早い時期に中国から入ってきており、誰が先に食べたの問題ではなく、中国帰りのお坊さんが既に麺類を食していたのは明らかであろう。素麺は中国では精進料理の麺で宿坊で食べられる。インターネットで調べると索餅が索麺となり、素麺と混同されたとあるが、無理ではないか?天津で麻花が索餅として有名だが、これをほぐすのは並大抵ではない。はっきり言って無理な話だ。索とは縄のことで、素麺は細く柔らかい麺で、縄は想定し難い。素麺は仏教と一緒に中国から精進料理として入ってきたと考えるのが自然だ。お坊さんは鳥ガラスープのラーメンは食べられなかったからだ。

素面(亲手擀的面味道才对)的做法图解12索餅(さくべい)」は通販で買える?!七夕の伝統的なお菓子【グレーテルのかまど】」 - 明日は何を食べるかな
中国の素麺と索餅

うどんは中国で言う餛飩(hún・tún)からきたのではないか?ほうとうも似ている。中国で食べる餛飩の味付けは日本のうどんと似ていて、魚介類スープにワカメが入っている。あっさり食べられる。日本ではワンタンと言うが、中国ではフントウンになる。ワンタンの具を取るとうどんそのものだ。素麺、うどんともかん水を必要としなかったから日本で広く食べられるようになったのであろう。仏教伝来と深く関係ある関西の食文化に根付いていることからも理解できる。

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5.中華そばは何故ラーメンに名を変えたのか?:1960年代、高度経済成長の中で付加価値を上げる時が来ていた。そばの名がつく限り立ち食い蕎麦の価格に縛られることになる。主食に躍り出て、別の価格体系を創造するにはそばの名を外さざるを得なかった。そして、中華の縛りを解き放ち独自の麺を表現する時がきていた。かん水の国産化と使い方の妙を既に取得していた。日本独特の魚介類スープと具を試す時が来ていた。海外でも通じる言葉、ラーメンになることにより日本国内だけでなく世界へ市場が拡大。これが大きいだろう。ラーメンの最初は札幌ラーメン中華ではない日本の北方産の独自のラーメンとして全国にチェーン店展開を開始した。有名だったのがどさん子だ。ペリカンの嘴の下部分がどんぶりになっている。味噌バターコーンラーメンを編み出した。麺は黄色く縮れた太麺だった。ご当地ラーメンの先駆けだが、けしてご当地ではなく、東京が創業の地で、札幌とは関係がなかった。丸亀製麺が似ていると言えば似ているが、ロードサイドに爆発的に出店し、最盛期全国に1,157店舗あったと言う。日本最大のラーメンチェーン店だ。日高屋、幸楽苑でも400店舗、丸亀製麺で800店舗。急拡大した理由がインスタントラーメンの拡販時期と重なるからで、サッポロ一番味噌ラーメンが爆発的に売れた時期に重なる。日本独自の味噌、塩味を登場させた。全く従来の醤油ベースとは一線を画すことになる。そしてラーメンの時代を創出することになる。まさか世界に通じることになろうとは。今や日清の命名のカップヌードルは世界の言葉になっている。市場の7割は日本ではなく海外になっている

消えゆく「どさん子」】「味噌バターコーン」はここで知った : SAMのLIFEキャンプブログ Doors , In & Out !世界で一番インスタントラーメンを食べる国はどこ?日本と韓国のラーメンの誤解 | モンモンイのある日ラーメンと子ども
札幌ラーメンで始まったラーメンはカップラーメンとして世界中に広まった。今は中国が消費量No.1

20年前、初めて上海から蘇州へ汽車に乗った。あの頃新幹線なぞない。大陸横断鉄道のような古く大きな鋼鉄の厳つい車両。正直汚かった。満席。昼時で、皆カップラーメンを抱えている。何とでかい、子供の顔くらいあった。車掌は若い女性で、何とコマーシャルで一世風靡した大きなやかんを持っている。お湯はサービス。もう既にカップラーメンは中国に根付いている。2019年、年間414億個のカップラーメンが中国だけで消費されている。驚きの数字だ。これは全て明治時代、上海から麺職人が日本に渡り、かん水の使い方と麺の打ち方、スープの調合、具の合わせを教えたから生まれたもの。無心でカップラーメンを食べてくれる中国人の姿に日本として少しは恩返しをしたのではと今思っている。

投稿者: ucn802

会社というしがらみから解き放されたとき、人はまた輝きだす。光あるうちに光の中を歩め、新たな道を歩き出そう。残された時間は長くはない。どこまで好きなように生きられるのか、やってみたい。

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