老人と薬(薬は神ではない)

薬を売る者は両眼、薬を用いる者は片眼、薬を服するものは無眼          薬がいかに諸刃の剣か、製薬会社は全てを知っている。医者は片刃のみ患者に言う。患者は医者を信じ、処方箋を全て鵜呑みにする。しかし、全ての薬の効能と飲む責任に患者は伏する、結果として体を寧ろ蝕むものになったとしても。患者はまず自らを守るため”薬は毒にもなる”ということを知らなければならない。特に歳を取ればとるほど”薬毒深刻になる。クスリは逆にするとリスクになる、特に老人にとって。

昨年の12月、全ては左目の不調から始まった。以前から左目のコンタクトレンズが外れることが多かった。アレルギー性結膜炎のせいにしていたが、徐々に痛くなってきた。年末には、目の玉が破裂するのではと思うほど熱くなり、腫れているのを感じた。何が起きたのか?医者に聞くと初期の急性緑内障発作。遂に緑内障が攻めてきた。眼医者は目の玉が落ちるので下を向かないようにと言う。異例の年明け早々の手術となる。見開いた目から溜まった房水を逃し眼圧を下げるため、厚くなった水晶体を取り除き、薄い人工レンズを入れることになる。麻酔は目薬のみ。時計仕掛けのオレンジの瞳を見開いた状態にするため瞼をクリップで固定するシーンを思い出す。恐怖で震え上がった。目ん玉が跳び出る話で済まない。しかし、ここからが問題になる。

手術を前に血の検査。結果血糖値が高いと指摘を受ける。HbAlcが7.6%、ボーダーを1.4%超えていた。これも昨年から徐々に上がっていた。ボーダーで生きていたが、最早治療しないと手術が危ういと脅された。輸血の必要のない手術で関係ないが、最悪必要になるのでと言われ、目に付いた、近所にある糖尿病専門クリニックに飛び込んだ。今度は血圧を測ってもらう。何とこれも高い。140/102mmHg。血圧だけは自信があったので流石にショックだった。手術前に片付けなければならない。焦った。これからが薬漬け地獄門弱り目に祟り目!後で分かるが、実際、焦ったところで薬はすぐには効くものではなかった。要は既に間に合わなかったし、焦る必要もなかった。薬に関係なく、無事手術もうまく行き、左目は回復した。右目より良く見えるようになった。尚、レンズ交換の手術は20分ほどで、瞼はクリップで止めることなく、テープのみ。麻酔は目薬のみで、痛みは術前から術後まで全くない。執刀する医師の声が聞こえ、動作が何となく分かるが、何をしているのかは勿論わからない。血を見ることは全くない。目が水中を泳いでいる感じを受けたのみ。眼帯を術後1日掛け、風呂を1週間我慢し、温泉は1ヶ月入るのを禁止された。寧ろ、これが一番きつかった。山行きができない。

本題に戻る。糖尿病専門クリニックで指示された薬はルセフィ錠2.5mgSGLT2阻害剤の一つで血糖値を下げるため糖を尿から排出する。私は5年前の膀胱の抗癌治療による慢性の頻尿から睡眠障害に苦しんでいた。2〜3時間おきに起きてトイレに行っていたが、この薬によって1〜2時間おきになった。医者にこのことを伝えても糖尿病には糖を排出して改善するのが良いとの一点張りだった。頻尿の倍返しだ。手術のため我慢した。次に追加されたのが血圧を下げるアムロジピンだった。車の運転がキツくなった。酒も弱くなった。缶酎ハイ1杯でふらふらになる。翌月早々には長い船旅を控えていた。船上でもしものことがあったら大変だと思い、止められない。結局1ヶ月で数値は下がらない。内臓に働きかけ血糖値を下げるメトホルミンを追加してきた。頻尿による寝不足で苦しいと伝えると寝つきを良くする薬ラメルテオンを更に提供してきた。次に睡眠を継続させる薬ベルソムラも追加され、もう頭がクラクラする。睡眠は無意識状態に陥って始まり、トイレには目が覚めないフラフラ状態になりながら行く。頻尿は変わらない。瞬間の睡眠は深くなるが、覚めてもふらつくのが怖い。頻尿からくる便秘にも悩まされる。びっくりしたのは、歯茎も弱くなり、タクワンをかじるだけでも痛くて噛み切れなくなる。背中がしきりに痒くなる。そして息切れ、体力が失われていくのを感じる。食欲が失われ、無気力化していくのが分かる。2月初旬、無事長い船旅を終えることができた。頻尿には苦しんだが、ことなきを得た。2月末にはルセフィ錠は1回2錠5mgまで上げられた。3ヶ月で効果テキメン。3月末には、血糖値は6.7%、血圧は117/77mmHgと急激に下がる。体重も69.1kgに減り、睡眠も2度寝できるほど改善される。一方、数値が急激に下がったことで命の危険を感じることになる。私を襲ってきたのは低血糖、低血圧だ。過剰反応に陥っていく。数値が下がった時点で薬を止めるべきではなかったか、少なくとも薬の量を減らすか、薬を変えるべきだったのではなかったかのと、今でも疑問に思う。過ぎたるは尚及ばざるが如し

薬は諸刃の剣だ。身をもってわかったのが4月、2度登山した結果だ。医師は適度な運動療法を薦めるが、大した山登りでなくとも登山後に襲われる筋肉痛、腰痛で悩まされた。これは異常だ。今までにない経験だった。しかも2度目の登山は距離も9kmと短かく、標高差も570m、所要時間も6時間とそれほどでもなかった。登山を終え、駅のホームで缶酎ハイ1杯を飲み、数駅電車に揺られ、バスに乗り換えて温泉へ向かった。バス停から温泉に向かう途中もフラフラだったが、露天風呂で遂に意識を失った吐き気意識混濁で体は硬直し、動けない。裸で小一時間ぶっ倒れていた。どうしようもない。死の恐怖だった。低血糖低血圧が両方襲ってきたようだった。高齢者は薬の効きすぎによる副作用が多い。原因は、肝臓、腎臓の機能が老化して能力がおちているので、肝臓の解毒作用や腎臓の排泄能力の低下により薬が体の中に多くなる。端的に言えば、高齢者の免疫力の低下が薬の副作用を呼びこんでいることになる。

次の日から血糖と血圧を下げる薬、更に睡眠導入剤の摂取も止めた。病気を治すより、命を維持することの方が大事だ。高齢者が薬を漫然と飲むことの危険性を感じた。医薬メーカーも医者も薬剤投与対象をけして高齢者とはしていない。一般的な医薬的効果を前提に投与を薦めている。高齢者に当て嵌めると間違いを犯す。一方、高齢者の目標血糖値のHbAlcは基準値より高い7.0%未満。これは低血糖が脳卒中を引き起こすためだ。血圧は137.8/85.6mmHg、低血圧は脳へ血を回らなくし、認知症へと導く。私はこの数値を3月末でほぼ達成していたのも関わらず、漫然と医者の言うがまま薬を飲み続けたことが間違いだ。高齢者は高齢者として基準値を緩めに見ながら投薬を調整すべきだ。今回、私は体調が悪くなって初めて調合された薬をインターネットで調べて副作用の内容を詳しく知ることとなった。製薬会社はサイト上で効能と副作用の内容を詳しく公開している。医者を信じても薬は別物である。医者は対象とする病を治すため、最良の薬を提供し続けるが、これはあくまでもその病に対する挑戦で、患者のその病以外の病がそこから消えていることが多い。実際はその病以外のファクターが多い。人にはそれぞれ個々に病を持ち戦っている。この病とは高齢化に伴うことが多い。急激な数値の悪化に目を奪われて本筋を忘れてはいけない。自分の体調にまず合わせることだ。日本は今や押しも押されぬ長寿大国となっている。これは予防医療の充実国民皆保険制度による医療費負担の軽減によるものが大きいと言われている。ただここに弊害もある。患者は薬を安く手に入れることができるので、副作用を気にせず。医者任せに症状に応じて次から次に薬をもらうことになる。医者は即効性のある薬に飛びつき、専門外の薬も提供し、結果を求めることになる。長寿大国の名と共に日本は薬服用大国となる。老人は長生きできるが、結果として寝たきり老人を生み出している。日本は世界でも稀な寝たきり大国でもある。もし私がこの薬を飲み続けていたらどうなるか、糖尿病と高血圧は治るが、脳の機能を失っていく、認知症予備軍だ。脳の機能を失えば、人は廃人となり、生きる人間から生かされる人間に変貌し、長生きするかもしれないが、生きていく楽しみを一つ失うことになる。若いうちに謳歌していた自由という権利だ。

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この1週間後、糖尿病専門クリニックに診察してもらう。薬を1週間止めてどうだったか?血糖値のHbAlcは7.6%から6.4%に下がっており、血圧は140/102mmHgから131/90mmHgに改善されている。体重も減り続けている。もはや薬は止めたいと医者にお願いした。唯、睡眠継続剤ベルソムラは1ヶ月分処方してもらうことにした。高血圧、高血糖は頻尿による睡眠障害が原因で、身体的ストレスが引き起こしていたと思われた。実際、眠れるようになってから体調が良くなった。この薬も漫然と飲んでいると副作用がある。睡眠障害が改善されるまで飲むことにした。

歳を取ってきて分かったことがある。薬が以前より効くようになった。2018年5月発行の厚生労働省の高齢者医療適正使用指針によると「高齢者では薬物の最高血中濃度の増大および体内からの消失の遅延が起こりやすいため、投薬に際しては、投与量の減量や投与間隔の延長が必要である。したがって、少量(例えば、1/2量~ 1/3量)から開始し、効果および有害事象をモニタリングしながら徐々に増量していくことが原則となる。特にいわゆるハイリスク薬(糖尿病治療薬、ジギタリス製剤、抗てんかん薬等)の場合は、より慎重に投与量設定を行う。」とある。正に高齢者は薬の効き具合を測りながら投薬しなくてはならない。私は今回、糖尿病治療薬の量を増やされ、効き過ぎたと思われる。また降圧剤は利尿剤を併用すると血圧が下がり過ぎると注意書きにあった。私に処方された血糖値を下げる薬のSGLT2阻害剤は利尿作用を特長とした薬で、元々併用できなかったのではと疑われた。途中で追加された糖尿病治療薬メトホルミンは、利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害剤等)との併用により脱水から乳酸アシドーシスを起こすことがあるとしている。乳酸アシドーシスとは、胃腸症状(悪心、嘔吐、腹痛、下痢等)、倦怠感、筋肉痛などの初期症状から始まり、過呼吸、脱水、低血圧、低体温、昏睡などの症状へと進行する致死率の高い疾患だ。睡眠薬のラメルテオンベルソムラについては、本剤の影響が翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意することとある、この薬を二重に飲んで車なぞ運転できないではないか?尚、降圧剤は酒もめまいや動悸などの副作用を強めるので薦めない。酒なしで残り少ない人生に何の喜びがあると言うのだ。安に処方された薬を信用し、飲むと様々な問題を誘発していく。我々高齢者は医者に甘えず、自ら体を守る術を習得すべきだ。一番いいのは薬に頼らない体を作るべきなのだが、それは理想論であり、どうしても高齢化とともに体にガタがくる。この時に冷静に弱ってきた体の機能に向き合い、最小限の薬で済ます勇気がいる。少しでも副作用が本来の薬の効能を越えていると判断した時点で投薬は止めるべきだ。自分の命を守るために。医者が何と言おうとも。それには処方された薬をネットでよく調べ、理解しておくのがベストだろう。これは歳を取れば尚更だ。薬は決して神様のように全てを救ってくれるとは限らないのだ。

参考資料:多すぎる薬と副作用 高齢者と薬の副作用 高齢者の薬に関する注意点 ふらつきなどの副作用・多すぎる薬 白内障手術で眼圧が下がる 高齢者の糖尿病の目標が決定 低血糖を避けながら血糖コントロール 血圧正常値はいくつ?健康への影響や高血圧や低血圧のリスクも解説 高齢者の医薬品適正使用の指針

投稿者: ucn802

会社というしがらみから解き放されたとき、人はまた輝きだす。光あるうちに光の中を歩め、新たな道を歩き出そう。残された時間は長くはない。どこまで好きなように生きられるのか、やってみたい。