トルストイと通販詐欺

他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない。
他人の幸福の中にこそ、自分の幸福もあるのだ。 
                 

トルストイのこの言葉を詐欺師はどう受け止めるのだろうか?他人を貶めて、利益を貪ろうとして何が楽しいのか?「金が何よりも卑しく、しかも厭わしいのは、それが人間に才能まで与えるからである。ドストエフスキーのこの言葉は、犯罪の巧妙化を示唆している。トルストイドストエフスキー共に百年以上前に生きたロシアの著名な作家だ。今尚、この言葉が時代を超えて我々の心に訴えかけてくるのは何故か。それは我々の本質は変わらない。寧ろ騙す才能のみが進化しているだけと理解できる。私が通販詐欺に遭ったのは奇しくもトルストイ全集をネットで求めたからだ。私が求めたのはトルストイの『神の国は汝らのうちにあり』だった。この書は1894年に出版された、正に2度の世界大戦前夜にあたる戦争の世紀としての20世紀を予見していた書だ。戦争は権力者によるより巧妙な詐欺だ。自国の利権獲得国家存続の危機と絡めて国民を煽り、殺し合いに持ち込む。今はミサイルやドローンを使った人の手を汚さない殺人が国家によって行われることにより、国の暴力が見えなくなくなっている。正に恐ろしい時代が到来した。私はこの書を求め、迷走した。

そもそもこの書を欲しいと思ったのは、ウクライナ、パレスチナ、イランにおける終わらない戦闘状況、東アジアにおいては、ミサイルの威嚇競争で均衡を保とうとする日中韓北朝鮮の一触即発の状況に、世界はまた嘗ての戦争の時代へ突き進む様相を呈していると感じたからだ。「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」とユネスコ憲章で謳っている。戦争は人間の心の中にある偏見、不信、不平等感から生じることを指摘している。平和を再構築するための国連はもはや機能不全に陥り、相互不信の連鎖が世界に蔓延している。歴史を振り返っても、世界が二極化すると、直接的な大国同士の衝突は避けられるが、大国による小国虐め、周辺国を巻き込んだ代理戦争や軍拡競争が激化しやすくなる。正に米国NATOと露中の二極化によって、ウクライナ、中東における大国の蹂躙、東アジアの不安定化、軍拡が進んでいく理由が分かる。トルストイは世界大戦が迫った時代に、この書の中で「十戒に『殺してはならない』と書かれているのに、どうして人を殺せようか?」と非暴力主義を唱えている。この書を是非読みたくなった。書評には「この本はトルストイの30年にわたる思想のなかで最高潮のものであり、キリスト教の解釈に基づいた新たな社会組織を展開した。」とある。インドの独立を勝ち取ったマハトマ・ガンディーは、「この本は彼を圧倒し、永続的な感銘を与えた」と書いている。読まずに死ねようかと思って当たり前ではないか。しかし、現実は翻訳本の絶版!20世紀が戦争の世紀だったことをもはや我々は忘れてしまっているのだろうか。貧すれば鈍する。この貧は経済的だけでなく、心にも当てはまる。心の貧しさはさもしさをも酷いものする。この世に詐欺が蔓延する理由も分かる。

この書の翻訳版が読めるの河出書房新社の1972年初版のトルストイ全集のみで、これも絶版。古本で当たらなくてはならない。全20巻。どの巻に収められているか?亡くなられる16年前に書かれた本なので、勝手に後期作品集と思った。この2巻が売りに出されているのを古本屋さんのサイトで見て、直接連絡し、買いに向かう。我が家から自転車で行ける距離にある。2千円だった。帰って、本の目次を見ると探していた書が入ってない。調べてみると宗教論2巻の下に収めてられているではないか。求めるものを手中に収めたことが幻想だった時、人間はよりこの幻想を更に強く追い求めるものだ。この焦りが良くなかった。宗教論はamazonでは下巻のみで15,000円と高い。古本屋のサイトでも2冊で6,000円になる。他は売り切れだ。更にググると安く買えるサイトがみつかった。3,380円で2巻、しかも『復活』まで付いてくる。そして送料無料。サイト名はSacs販売店、会社の住所は福島県郡山。買いに行くのには遠すぎる。往復新幹線代込みで高い買い物になってしまう。尤も送料無料。後期作品集が2千円だったので、これもアリかとも思えた。所有者が処分したものを通販業者が二束三文で手に入れ、売りに出たと考えた。一瞬、詐欺かと頭によぎったが、たかが数千円の本の如きで詐欺なぞ働く輩がいるまい。古書コレクターが収集するような代物ではない。そこに罠があった。上手い話には裏がある。支払いはpaypay一択。ペットのアクセサリーや服などネット通販サイトTemuで慣れているので、気にはしていなかった。ただ、このサイトは中国にとはこの時感じていた。危ないかもしれない。後期作品集を買ったその日に、携帯のpaypayでサイトのQRコードを読み取って支払いを済ませました。この本を手に入れたい欲望と早く本を揃えたい焦りがそうさせた。この日は春分の日、3連休の初日だった。

次の日、このサイトから変なメールが届いた。支払いの督促だった。paypayで払ったので、即入金だったはずだ。しかも受け取っているのを確認している。おかしい。この時点でやっと変だと感じた。昼、喫茶店でママにこの件を話した。話しているうちにイコンの詐欺サイトを思い出していた。半年前、部屋に飾るイコンが欲しくて、メルカリでギリシャ正教会の宗教画として出展されていた。ただ52,000円と高い、別のサイトで似たものを探しているうちに全く同じものが出ている。しかもまだ売れてもいないのに26,303円と半額近い、画像、紹介文全てがコピーされていた。この偽サイトの運営会社が同じ福島県だった。やられたと思った。帰って、メルカリで調べてみると、やはり元があった。半年以上前に売れている。タバコの臭いまで一字一句一緒。ただ、値段の4,980円が線で消され、3,380円になっているのみだった。メルカリで高く買って安く売るなんてありえない。しかし、何故、たかがこの金額のしかもメジャーとは言えない古本で詐欺を働くのか?理解できなかった。私のような時代遅れの人間を捕まえたかったのか?捕まえる確率も低いだろう。イコンの詐欺サイトは中国人が運営していた。郡山の事務所は某運送会社の倉庫で、これで嘘と分かったし、電話に出たのも中国人だった。私は中国に長く滞在していたので、中国人の日本語が分かる。そして、案の定、本の支払いに対するお礼のメールは変な日本語に変わっている。中国語の翻訳に違いない。本はもはや届かないのに、嫌味で『楽しみにしている』と返信した。

3連休が明けた月曜日に警察と消費生活センターに連絡を取り、相談に乗ってもらうことにした。警察に連絡するとすぐ署に来てくれと言われた。刑事が出てきた。事情聴取になる。全てを聞き、詐欺師とのやり取りのコピーを受け取った上で、詐欺はまだ成立していないと言われた。確かに状況証拠だけでは詐欺は確定できない。更に、「詐欺が確定した時点で連絡下さい。届出は受けたので、paypayに申請する際、警察の受領番号を提出するように。お金が戻るでしょう」と言われ、終了する。消費生活センターは電話対応で、お金はいずれにしても戻らないとはっきり言われ、返金詐欺が待っているので、詐欺師と連絡を取らないように忠告された。やっと分かった。詐欺師の真の狙いは実は次のステップなのだ。Youtubeにその手口が載っている。Lineに友人登録させ、画面共有によって、返金を謳いながら、paypayを使って更なるお金の詐取を図るというもの。5桁の認証コード入力が数十万円の送金になるように仕向ける手口には驚いた。詐欺の真骨頂になる。流石に引いた。しかし、paypay詐欺は、買い手が現金送金によって成り立つ訳で、私はpaypayで支払っている。返金に人的操作は必要はない。以前、中国のサイトalibbaから商品を購入した際、不良品だったので引き取って頂くと同時にpaypayで返金された経験がある。次の日の火曜日、このサイトから訳の分からない日本語のメールが届いた。欠品の報告と代品の受入許可願い???私が欲しいのはこの本で、代品なぞありえない。paypayで支払ったので、そのまま返金して欲しいと言うと、黙って終わる。3日後、3日以内でline登録の上、返金するメールが届いた。どうしてもlineを通し、私を操作したいのである。もはや詐欺は明確になった。paypayに警察の被害報告受領番号を付けて詐欺被害の補償申請を行うも、自らの意思で送金したものについては補償しかねるとの回答をもらった。結局、お金を取り戻すことを諦めざるをえなかった。警察は民事に介入しない。警察の狙いは詐欺という刑事罰によって犯人を捕まえることだ。個人補償は彼らの仕事ではない。捕まえてくれれば、取り戻せるチャンスは生まれるが、まず捕まらない。このサイトが中国にあれば、中国の法によって裁く訳で、日本の治外法権にあたる。ましてサイトに実態がなければ、、捕まえようがない。仮想空間の中で犯罪は行われ、詐取された金のみ動いている形になる。要は、私に金を取り戻してはくれないということ。

お金は信用の証。信用なきところにお金を生じさせてはいけない。トドのつまりが投げ銭になる。売買には信用が前提でお金は最後基本はお金は最後まで払うべきではない。このサイトは信用に値するのか?答えは否だった。「Sacs販売店」をグーグって見ると怪しい偽通販サイトがいの一番に出てくる。サギラレというサイトで、偽通販サイトを調査し、報告している。なんとこの情報は今年2月に報告されている。更にこの販売店のURLアドレスasia,cyouは詐欺サイトに繋がると指摘している。一方、代表者名がイージーテックとしているが、これは許されない。個人名としなければならない。法的責任逃れになる。このイージーテックなのだが、中国のゲームソフト会社の名前。更にpaypayで支払い先は会社ではなく、個人宛になっているのは商取引違反になる。因みに宛先のOSOMKはおそ松くんから取っているのだろう。電話については繋がらない。ファックス番号は別の詐欺サイトにも使われている。連絡はメールのみとして、直接やり取りを避けている。もっと言えば、古本をネットで販売する「古物商許可」が示されていない。細かいが生産拠点に福光とあるが、これは福岡だろう。中国語の発音が似ている。変換間違いでこうなった。随所に中国で使われる漢字が見られる。日貨とは中国語では日本製品を意味する。このサイトが日本ではなく、中国にあることが推測される。そもそもこのようなサイトから本を買うべきではなかったのだ。このサイトにはホームページが登録されていない。商品の画像検索にのみ出てくるところにミソがある。欲しい商品に目が眩み、価格の安さから、このサイトで買おうとしてしまうわけだ。実態のない会社は掲載情報を塗り替えながら、訴求商品に小判鮫のように付き纏っている。今も!

「トルストイ全集 宗教論 古本」と画像でググると、関連サイトがトレードマークと共に紹介される。その中で、詐欺サイトはコメリのロゴで分かる。更に偽造URLが表示されている。如何にも偽造ぽい。mexicomajorpremierpadel.comならSacs販売店。実際のURLはsacs.odales.cyou、サイトの会社概要を見ると驚くが、会社名、設立、資本金、代表者、所在地、電話、FAX、メールアドレス、従業員数を頻繁に変えている。要は全てダミーになる。詐欺商品を一度買わせればいいということが分かる。後はさようならなのだろう。尚、この網は様々なサイトを散りばめて、どれかに引っ掛かればいいという手法になる。例を挙げれば、Goa市場店Jaded販売店Glum販売ショップ、他にもサイトを次々に立ち上げている。チェックしなければならないのはサイトのURL。これだけは嘘を言えないからだ。末尾のドメインで判断するのが早い。人間は欲望に負ける。それでも欲しければ、このサイト名をまずグーグルすること、電話をしてみて実態があるか、日本語が正しいか?これだけでもチェックしなければならない。一度引っ掛かるとメールに詐欺攻撃が凄くなる。私は今参っている。もっと怖いのは、自分の氏名、住所、電話番号をこの詐欺サイトに使われることだ。

論語にある言葉が身に沁みる。「多く聞きて疑わしきを闕き、慎んで其の餘を言えば、則ち尤寡なし。 多く見て殆きを闕き、慎んで其の餘を行えば、則ち悔寡し。 言に尤寡く、行いに悔寡ければ、禄は其の中に在り」要は、たくさん話を聞き、疑わしきは保留し、確かなことだけを慎重に話せば、人から責められず、多くのものを見て、危ういことは避け、確実なことだけを慎重に実行すれば、後悔しない。失言が少なく、行いに後悔がなければ、俸禄は自ずとついてくるということ。一方、渋沢栄一氏が実験論語処世談で記している、昔から人を欺くには、その人の好む処を以てするのが第一であるとせられ、色を好む者には色を以て接し、利に専らなる者は利を以て之を迎へ、その間に旨く其人を欺くやうにするのが佞人の常で、古来佞人は人の好む処に阿るものだとせられてある。嗜好に駆られ、自らを失う時、詐欺の術中に嵌ることになる。

年を取れば、ボケが進み、本が読めなくなる。字を追うことが面倒になり、字が読めても想像力が効かなくなり、文章の言わんとすることが頭に入らなくなる。ただ、読みたい本は山と積んである。然るに日々、墓場が近づいてきているのが分かっている。頭脳を言う前に体がなくなれば、万事水泡に帰す訳で、死の影を恐れ、焦るのは悲しい人間の性。これがいけなかった。急いては事を仕損じる、待てば海路の日和あり。慌てると、碌な事はない。多くの樹木は春に花を咲かせ、夏は枝葉を大きく茂らせ、秋に枯葉を落とし、冬の間は貯えた養分でじっと耐えながら、それでも春を待つべきなのだ

老子曰く、「道を以って人主を佐くる者は、兵を以って天下に強いず。その事還るを好む。師の処る所は、荊棘生ず、大軍の後は、必ず凶年あり。善くする者は果たして已む。以って強いず。果たして矜ることなく、果たして伐ることなく、果たして驕ることなく、果たして已むを得ずとす。これを果たして強いるなしと謂う。物は壮なればすなわち老ゆ。これを不道と謂う。不道は早く已む。」 即ち、道理に従えば、武力をもって天下をおびやかしたりはしない。無理強いすれば、報いがある。戦争により農地は荒れ、凶作に襲われる。国に勢いがあれば衰えるのも早い。道理を弁えないと早々に滅びる老子はほぼ2,600年前に生きた中国の哲学者になる。トルストイの出現する遥か昔に反戦を唱えた師が中国に存在したことに驚かされる。中国という5千年の文明歴史を有する国家にとって、建国の戦いこそ熾烈であり、国民にとって過酷だったことが十分理解できる。不戦こそ民衆の願いだった。それが老子への共感であり、後の世のトルストイ崇拝に繋がっているのだろう。日本では昔と違い、ロシア文学への憧れが薄れている。これは政治、文化、軍事における欧米重視の流れによることは明確だ。それを知らない中国のサイトはトルストイを売れ筋と判断し、詐欺を仕掛けてくる。私のような年金暮らしのロートル(老頭)がターゲットになることを彼らは知っているのだろうか?尤もロートルだからこそ、詐欺にひっ借りやすいとも思っているかもしれない。


投稿者: ucn802

会社というしがらみから解き放されたとき、人はまた輝きだす。光あるうちに光の中を歩め、新たな道を歩き出そう。残された時間は長くはない。どこまで好きなように生きられるのか、やってみたい。

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